2020年6月19日放送のTBSラジオ系のラジオ番組『問わず語りの神田伯山』(毎週金 21:30-22:00)にて、講談師の神田伯山が、立川談志が弟子たちに矢継ぎ早に用を言いつけて「できないとめちゃくちゃ怒った」というエピソードに「これはパワハラだね(笑)」と語っていた。
神田伯山:なんか最近さ、パワハラみたいなのが問題になっててさ。大前提として言うと、俺パワハラとかもう大嫌いだし、ああいう体育会系のとかも凄い嫌いだし、容認は絶対しないんだけど。
なんか師弟関係とかでもさ、弟子とかがさ、「それパワハラですよ」みたいなことを言う可能性があるとするならば、結構、師匠受難の時代になってくるね、今後ね。
そう考えるとさ、先代の小さん師匠とかさ、大体上の人がメシおごってくれんじゃん。で、俺は別に面識ないんだけどさ。お会いしたことないけど、先代の小さん師匠とか、とにかく戦争時代、腹が減ってて。自分が腹が減ってたからってことで、若い人にめちゃくちゃメシ食わせんだよね、あれね。
だからなんか、とりあえず5~6人で入るとすると、前座って一番下っ端が一人いるとさ、「とりあえずラーメンと、レバニラ定食と餃子、人数分」って言うんだよね。で、師匠方はラーメンしか食わないっていう(笑)はっはっはっ(笑)
そのレバニラ定食が、前座が食わなきゃいけないんだよ、その6人分とか(笑)ラーメンもよ、余ったやつとか。で、前座は残しちゃいけないルールがあるから。残したら、「俺が奢ってんのに、残したのか」ルールがあるわけ。
だからもう、みんなもう先代の小さん師匠と行くときは…やさしさなんだよ、小さん師匠の。やさしさなんだけど、全部食わなきゃいけないから、もうみんなペコペコで行ってたらしいね(笑)それでも、食細い奴はさ…あれを訴える可能性あるの?今後。
いや、結構大変じゃん。先代の小さん師匠のはまだ笑える感じだけどさ、談志師匠とかさ、みんな住み込みっていうか、来るじゃん。で、5~6人前座がいる中で、用を言いつけて談志師匠が行くんだけど、その用が一個じゃないんだよね。
談志師匠の弟子の談春師匠が『赤めだか』って、これも名著ですけど、書いてある本の中に…そのまま読みますけど。談志師匠、わざとなんだけど、いっぱい弟子に早口で用を言いつけるんだよね。
「2階のベランダ側の窓の桟が汚れてる、キレイにしろ」と。「ハガキ出しとけ」「スーパーで牛乳買ってこい」「庭のツツジの葉がしぼんで汚ぇ、むしれ」「留守の間に、隣の家に宅急便が届いてる、もらってこい」「枕カバー替えとけ」「事務所に連絡して、この間の仕事のギャラを確認しとけ」「シャワーの出が良くない上に、お湯がぬるい。原因を調べて直せ。どうしてもお前らで直せないな職人を呼ぶことを許すが、カネは使うな」「庭の八重桜に毛虫がたかるとイヤだから薬撒いとけ。なんか探せばそれらしきものがあるだろ、なきゃ作れ。オリジナリティってのは、そうやって発揮してくもんだ」って言って、横丁の散髪屋に行くんでしょ(笑)はっはっはっ(笑)
これを、弟子5~6人が、「師匠、何言ったかな?」っていうのを、全員がファーって行って。で、なんか2個ぐらい足らないんだよね。で、帰ってきて「お前、これとこれ、できてねぇじゃねぇか」っつって、めちゃくちゃ怒られるんでしょ。
これはパワハラだね(笑)はっはっはっ(笑)
でもこれを、実は談志師匠も考えてて。「これを多分言うことによって、将来コイツらはこれをネタで食っていくことができるだろうな」っていうやさしさと、で、こういうシャレの世界だと、一つ二つ用を言いつけて、それではい終了じゃなくて、こんだけいきなり早口でまくし立てるっていうは、それを覚えてる談志師匠の技術も凄いし、そのままパって行く。
で、弟子に衝撃を与えて、「これからどうしたらいい?」って、「自分たち、どうしたらいい?どうしたらいい?」っていうところで、どう対応するか。思い出せない、1個、2個思い出せないで、でも、それをどう乗り切るかっていう、そこのオリジナリティ、それを悩み苦しむのが前座修行だから、これは全然パワハラじゃないよね、考えたら。
それ、裁判官に弁護士が言ったとして、それ成立すんのかね?(笑)「いや、修行ってのはそういうもんなんで」っていう(笑)