落語との出会い
伊集院光:(不登校でも)引きこもりじゃなかったのは、東京の都会だと行くところいっぱいあるじゃん、ゲームセンターでもなんでも。
千原ジュニア:なるほど。
伊集院光:で、行ってる選択肢の中に、寄席があったの。
千原ジュニア:東京やなぁ。
伊集院光:しかもそれ、ちょっと斜に構えてる。当時はもう、漫才ブームなんだよね。漫才ブームの終わりぐらいなんだけど。
千原ジュニア:うん、うん。
伊集院光:「俺、落語見ちゃったりして」みたいな。
千原ジュニア:へぇ。
伊集院光:ちょっとプライドもあって。「学校行かないで何やってんの?」「寄席見たりして」なんつって。
千原ジュニア:ああ、なんか俺も引きこもって、内容そこまで分かってないのに「三島由紀夫読んでます」みたいな。
伊集院光:あんだよね。
千原ジュニア:はい。
伊集院光:舐められたくないっていうか(笑)
千原ジュニア:はい(笑)
伊集院光:「困ってはいませんけど」みたいな。
千原ジュニア:はい。
伊集院光:「なんで皆さん、学校行ってらっしゃるんですか?」って方にいきたいって感じ。
千原ジュニア:はい(笑)
伊集院光:で、それをやってる内に、親が「あ、コイツは落語が好きなんじゃないか」って思って、滅多に会話しない親父が、「自分の知り合いに、落語界に詳しい人がいる」と。
千原ジュニア:ほう。
伊集院光:正確に言うと、親父の弟の知り合いにいるっていう。
千原ジュニア:ほうほう。
伊集院光:「その人と、話をしてみたらどうだ?」みたいな。
千原ジュニア:うん。
伊集院光:まぁ、家庭内暴力はないけど、いつもイラついてるから、親もそんな話しかけない中で、恐る恐るそれを提示してきて。
千原ジュニア:うん。
伊集院光:で、こっちもこのままじゃダメだって分かってるから、会ってみましょうかって。
千原ジュニア:16ぐらいですか?
伊集院光:それがね、高3の入り口ぐらい、17ぐらいかしら。
入門
三遊亭円楽:いや、(弟子に)とりたくなかったんだけど。
伊集院光:そうなんですよね。
三遊亭円楽:ウチの師匠の弟さんと、伊集院のおじさんが知り合いだったのよ(笑)
吉井歌奈子:ちょっと、コネ採用みたいな。
伊集院光:コネ採用どころじゃなくて、オジさんが「ちょっと知り合いがいるから、その人に頼んだら?」って言われて。大したコネじゃないだろうって思ったら、強力なコネで。
吉井歌奈子:あ、そうなんですか(笑)
伊集院光:(先代の)円楽師匠の弟さんってことで、それで潜り込むことができて。
三遊亭円楽:だけど、偉いのがね、弟さんがね「ウチの兄貴のところに行くよりも、楽太郎がいいよ」って。それがツイてたよ。
伊集院光:そうなんですよ。デカかったですよ。
三遊亭円楽:うん。あそこに行ってたらね、今はないよ。
伊集院光:その時に言ったことを、そのまま言いますとね、円楽師匠の弟さんが、「あそこにいたら、まず人数が多いから埋もれる。あとは、現代っ子は理屈で怒る人じゃないと恐らく長続きしないから」ってことを言われたんですよ。
三遊亭円楽:うん。
伊集院光:それで師匠のところに転がり込みまして。
三遊亭楽大として落語家に
伊集院光:当時、17歳で世の中のことがよく分からないし、もっと言えば年配の人に対する上下関係も分からない。それで普通の生活をしてても分からないのに、落語界はそういうの厳しいところで。今考えると、とんでもない弟子でしたね。
入門して3日後くらいですね。ウチの師匠が名前がないのも呼びづらいから、円楽師匠のところに行って、直々に孫弟子になるってことだから、名前をつけてもらえるってことになりまして。
ウチの師匠が、円楽師匠の家に僕を連れて行くわけですけど、僕は自覚がないから。ちゃんと弟子になったって自覚がないから。「笑点に出てくる魔王みたいな顔の人だな。生で見れんだな」くらいにしか思ってないんですよ(笑)家の近くにいったら、ガッハガッハ声が聞こえると思ってたんですよ(笑)
そしたら、円楽師匠は寝ているときは別にオールバックじゃないんですね。起きたら、円楽師匠はあんまり朝強い方じゃなくて、寝癖ブワーってついてて…魔王が(笑)出てきて。ウチの師匠が「今度、ウチに入ることになりましたんで、名前つけてやってください」って。俺はものすごい仰々しい命名の儀式があるんじゃないかな、と。三三九度みたいな(笑)祝福の宴があって、最終的には背中に焼きゴテで「円楽」って入れられるのかな、と(笑)
円楽師匠が「名前はなんて言うの?」って訊いてきて。「田中って言います」って言って。「あぁ、そう…田中だから田楽…さようなら」って(笑)入門が4秒くらいで命名が2秒くらいで(笑)今考えたら、絶対にありえないことなんですけど、「田中の田をとって、田楽…はい、そういうことで」「それ、なんかイマイチだな」って(笑)
よくそこで辞めさせられれないですよね。イマイチだっていうから、円楽師匠もビックリして(笑)「じゃあ、もう一つ候補を出しますね」って言って(笑)今度はスゲェ考えてくれるのかなって。長考に入りまして。一回、キャンセル入ってますから(笑)考えられないんですよ?入ってきた弟子が、名前キャンセルって(笑)
「じゃあ……」って、寝たんだよね(笑)10分くらい。ほんで、やっと円楽師匠が言ったのが、「君、大きいね。楽大!それでいこう」って。また2秒くらいで。その時も、「これイケてねぇな」って思ったんですけど、そしたらもうウチの師匠はビックリしちゃって。こんなバカが入ってきたって思ってるから、「良い名前だね!スゴイいい名前だね!末広がりだしね!」って(笑)円楽師匠も「じゃあそれで」って。
厳しくも優しい師匠
伊集院光:僕がよく覚えてるウチの師匠の話があるんですが…当時、師匠の家に朝、掃除をしに行ったリしてたんです。ウチの師匠は、めちゃくちゃ働く人なんですよ。ビックリするくらい働く人で、スケジュール帳も真っ黒なんです。
前の日の10時に仕事終わって、次の日が午後の2時から仕事だっていうと、その間に釣りに行けるって人だから。めちゃくちゃスケジュール真っ黒なんです。
それで、僕その日、39~40℃の熱が出て。自分としては「熱が出てるのにも関わらず行ったら、むしろ褒められるんじゃないか」って思って、チャンスと思って行ったら、5分くらい遅刻してて。「遅刻してるじゃないか」って言われたら、ここだって思って、「実は私、40℃の熱がございまして…這って師匠の家に参りました…」って、ちょっとオーバーに。
そしたら、師匠はスケジュール帳をバって出して。「もし俺が熱を出したら、お前らを養っていけるのか?」って。「待ってるお客さんを、納得させられるのか?」と。「熱が出ました、と偉そうに言うもんじゃない。お前を今日、帰させて休ませることはしない。ずっと仕事しろ」と。この人、鬼だなって(笑)
笑点に出ているときの腹黒さなんて、もう比じゃないんですよ(笑)腹黒く見せてて、本当は良い人なんじゃないかって思ってたら、本当はもっと腹黒いんですよ。大変なことになってる人だから(笑)
「カバン持ちより、大変な仕事をさせる。○○にある、クリーニングに出した着物を持って来い」と。お付きよりも辛い、おつかいですよ。しかも、今日、わざわざ取りに行かなくてもいいようなものですよ。この人、ヒドイなぁって思ってたら、その店が俺の家から徒歩2分なんだね。
それでいて、「とにかく行って、反省してこい。明日の朝まで、顔を見たくない」って言うんです。要は、帰って良いってことなんだね。(師匠)聞いてる?ちゃんと(笑)良い話しましたからね!
師匠から教わった「気遣い・処世術」
伊集院光:師匠以外の人から聞いた伝説で。歌丸師匠、多分、その頃はおタバコを吸われてて、缶ピースを吸ってらっしゃったんです。
三遊亭円楽:そう、そう。
伊集院光:その缶ピースがなくなる。最後の1本が切れた時に、「買ってこい」って言っても、すぐに缶ピースって売ってないの。ましてやコンビニもないし。
三遊亭円楽:うん。
伊集院光:そうするとね、「ありませんでした」って言うの。
吉井歌奈子:ああ。
伊集院光:でも、その当時の前座の楽太郎だけは、ダッシュでまずピースを確保して、「缶ピースはすぐに手に入りませんが、こちらは味が似ておりますから、こちらで繋いでおいてください」って言って、もう一回、駆けていくっていう。
三遊亭円楽:あとは、買っておく。
伊集院光:持ってるんですよ。
吉井歌奈子:在庫を抱えて、いつでも。
伊集院光:それがね、ズルいんですよ。
三遊亭円楽:ズルくないよ。なんだ、そのズルいって言い方は。処世術と言いなさい。
伊集院光:ふふ(笑)俺らは、言っちゃうのよ。「在庫、持ってます。持ってます」って言うんだけど、さり気なく出すっていう(笑)
三遊亭円楽:それも、出し方が「在庫持ってます」じゃないの。「言って参ります」って言って、外で5分くらい時計を見て、タバコ屋に行ったふりをして、鈴本(上野鈴本演芸場)の階段をダッシュして、「行って参りました」って。
伊集院光:ズルいでしょ?そういうの全部、考えるんだから。
「テレビが映らなくなった」と円楽が言い出した時のこと。明らかにコンセントが差さっていないだけ、ということが誰の目にも明らかでも、一応、テレビの中を開け、配線を差し直し、周りを掃除してコンセントを差し、「はい、師匠。直りました」と言うのだという。円楽は「楽太郎はテレビも直せる」と感心しきりだったという。
他にも、「頼み事がある」と神妙な声で深夜に、円楽が楽太郎へ電話をかけてきたときのこと。弟子が数名、『何事か』とやってきた。するとおもむろに「楽太郎、この書類のコピーを頼む」と言い出したのだという。
伊集院は気を利かせ、「それくらい、ボクがやっておきますよ」と書類を受け取ろうとしたところ、円楽は「楽太郎にしか任せられない!」と、楽太郎に頼んだという。昔は、コピーするのにも面倒な手順を踏む必要があり、失敗することも多かった、という印象が円楽には強かったようだ。そのため、深夜にもかかわらず、かたくなに楽太郎に依頼した、ということもあるが、楽太郎の信頼は絶大だった。
師匠の教育方針
伊集院光:僕は、都合のいいことばっか覚えてるんですけど。当時、寄席若竹ってあって、円楽一門の弟子は全部、(先代の三遊亭円楽に)「ヒマがあったら、一分でもそこに行け」って言われてたの。
三遊亭円楽:はい、はい。
伊集院光:それで、みんなそこで凄い働いてたんだけど、ある日、師匠が「たしかに、苦労は芸の肥やしだけれども、肥やしをあげ過ぎた花は、それはそれで枯れるからね」って言って、「自分で塩梅を決めて、自分のしたいこともしなさい」ってことを言われて。
三遊亭円楽:いつも思うんだけど、根腐れしちゃうんですよ。
吉井歌奈子:ああ。
三遊亭円楽:それからね、プレッシャーかけると潰れるの。やっぱり、芽が出たところで肥やしをあげなきゃ、育たないのよ。芽が出てないのに、肥やしあげてもしょうがないの。
吉井歌奈子:ああ。
三遊亭円楽:教育の原理っていうのは、それでしょ?
吉井歌奈子:ええ。
三遊亭円楽:やっぱり、プレッシャーをかけるんじゃなくて、伸び盛りの時に、パっと田仕舞してやりゃ、キュッと伸びんのよ。
伊集院光:僕の育った環境は…僕の育った、三遊亭円楽一門は、先輩が全部カネを払うんですよ。お笑い界、基本的にそういうラインです。先輩が全部カネを払うっていうのは決まりで。それはもう、ちっともイヤじゃない。
で、特にウチの師匠の円楽は…これね、人によって違うんですよ。他の師匠は、師匠が食べてるものよりも、安いものを食べなさいっていう、暗黙の了解で。師匠が、たとえば天ぷらそばを食べてたら、自分はたぬきそばくらいにしましょう、みたいな。
師匠がペペロンチーノを食べてたら、とりあえずはカルボナーラくらいにしなさいって。…値段の差が分かんないですけど、全然(笑)
「師匠よりも遠慮がちに食べなさい」って一門はあるんだけど。ウチの師匠の円楽は、それが大嫌いで。「一切、遠慮するな」っていうの。それが、凄い難しいわけ。
俺は、本当は普通にたぬきそばが食いたい時でも、「遠慮してんな、コイツ」っていう。「お前がそこで遠慮するってことは、俺は稼いでないって思ってんのか」っていう。「俺の懐具合を、お前に心配されなきゃいけないってことか?」っていう考え方だから。
ウチの師匠は、「とにかく好きなものを食べろ」っていう。これが難しいのは、かと言って、そこで一番高いものを食うのも、なんとなく…高きゃいいかって言うと、そうでもない、みたいな。そういうところですよ。
だから俺は、どこに行っても「俺に遠慮しないで、好きなものを頼め」っていう。しかも、俺の注文を見ちゃうと、それを基準に選ぶ可能性があるから、俺は注文はいつも最後か、内緒っていう。
自分が大変な時ほど弟子に優しかった師匠
伊集院光:(三遊亭円楽)師匠も優しい。元々(仕事での依頼など)そういう時、優しいし。
多分、師匠の中には、「自分のことで弟子に当たるのは違う」っていう意識が結構、強い人だから。「自分がある程度、局面として面倒な感じになってる時ほど、優しかったな」って(円楽の不倫報道があって)思い出して。
落語家廃業
伊集院光:俺が落語家やっていたとき、同時に「伊集院光」の名前でラジオをやっていた。だからね、落語家をやっている傍ら、ラジオもやっていた落語家としては何でもなかったけど、ラジオの方は少しずつ名前が知られるようになった。
そうしたらね、師匠の耳にも俺のことが届くわけですよ。「お宅のお弟子さんは、三遊亭っていう由緒正しい芸名を持ちながら、別の名前でラジオに出ている。それは、師匠の方針なんですか?」とかって言われるワケですよ。そういうとき、師匠は「アイツはバカですからね。何でもやらせてみて、分からせようと思いまして」なんて、かばってくれるわけです。
それで、辞めるときには、「師匠にもご迷惑をかけているようですし…」とかって師匠に申し上げた。そうしたら、引き止められなかったよ。「お前がいなくなると、室温が下がるな。…ちゃんと、お世話になったところに挨拶に行くように」くらいのことを言われて終わった。若手芸人が辞めるって言い出したら、ああいう格好良いことを言えばいいのかな。
そういえば、兄弟子の三遊亭花楽京は引き留められていたんだよな。花楽京さんは、俺よりも才能があった。その人が先に「辞める」って言い出したから、キツイものがあった。「俺より才能がある人が去って、才能のない俺が残る…なんだ、これは」みたくなるよね。まぁ、花楽京さんは楽太郎師匠の一番弟子だったっていうのもあるけどね。だから引き留められていた。それを思うと、切ないよな。
陰で謝ってくれていた師匠
伊集院光:17歳とかだから。この両立(ラジオ番組出演と落語)をさせようと思うことで、ウチの師匠が…今の円楽(三遊亭楽太郎)が、前の円楽に謝らなきゃならないことが凄い増えてるんですよ。
神田松之丞:ああ、なるほど。
伊集院光:勝手をしてるっていうので。それこそ…今、いくつだっけ?
神田松之丞:今、35です。
伊集院光:35っていう、落ち着いた年じゃないの。
神田松之丞:そうですね。
伊集院光:もう全然、やっと二つ目になりました、ちょっと位が上がりました、上がるか上がらないかでやってる時の勝手なことに対して、ウチの師匠が上の人たちに、とにかく一人、一人に謝りに。
神田松之丞:うん。
伊集院光:「勝手をしていますけれども、それは教育方針でやらせております」って謝ってるのを目にした時の、申し訳ないっていうのと。
神田松之丞:ええ。
伊集院光:「別に、師匠にそんな頭下げてもらわなくても、俺は食っていけますよ」って思う、高慢なのと両方重なるから。
神田松之丞:ああ、なるほど。
伊集院光:だから、わりと飛び出しちゃったけど。
先代の円楽が楽太郎に激怒した事件
今より若い志らくさんだからさ、きかん坊だからさ。しかもライバルだから、めちゃめちゃライバルでみんな同年代の人間なんて死ねばいいって全員思ってる頃だから。その中でちょいイジリしてきたの。
「落語の方は?」みたいなイジリをしてきて、「落語?それって食べられるんですか?」みたいな感じで、生放送で返したわけ。それで、軽く志らくさんも談春さんもキレかかったと俺は記憶してて。そのごちゃごちゃのままCMに入ってその番組は終わってったんだけど。
後に、もう1人さらに上の立川流のお弟子さんがいて、その話を聞いたんだろうね。そのニッポン放送で今出てきた伊集院光っていうのは本当は落語家なのに、落語家なことを隠してるひでぇ奴だっていう。
…そんなことがあって、立川一門のさらに上の人に、多分「腹立つ」って言ったんだと思うんだよ。当時、立川ボーイズっていうのも、ちょっとバラエティ展開をし始めてて。落語家なんだけど、バラエティに出てて。俺は俺でラジオがちょっと評判良くなってきてるところで、色んな面白い若者を集めよう、みたいな回にお互いゲストで出てて。
丁々発止やる中でそんな感じになってっから、腹も立ったんだと思うんだよね。それを兄弟子に言ったら、兄弟子が雑誌の連載に「こういう奴がいる」と。「伊集院っていう奴は、本当は落語家なことを隠してる」と。
それヒドイ文章でさぁ、「腹が立ったから推測で書くが」って書いてあって、「コイツは落語なんか好きじゃなくて、ただテレビやラジオに出れれば良かった奴に違いないんだ」みたいなことが書いてあって。
30年ぶりぐらいにそこのパズルが合ってくるんだけど。多分、その本を読んだんだと思うんだ。大師匠の(先代)円楽師匠が、どうも読んだらしくて。突然、『笑点』の楽屋に、人払いをして鞄持ちの弟子とマネージャーとウチの師匠だけっていう状態になって。「お前の弟子がどうやら勝手なことをしてるらしいじゃないか」っていう話から始まったらしいんだ。
で、最終的に大師匠は、「お前の弟子は落語を踏み台にしている」と。まぁ最初は「お前を踏み台にしているだけだ」と。「そのことをお前、分からないのか?即刻クビにしろ」みたいな話になって。
そしたら、ウチの師匠が「何でもやらせるっていう主義だから。やらないで分かる利口と、やんなきゃ分かんないバカがいるんで、師匠の僕が公認でやらせたいと思ってます」って言ったら、そこでその大師匠の円楽師匠っていうのは、すぐ笑うし、すぐ怒る人だから。その言い方が、「楽大はあなたの弟子じゃなくて、私の弟子です」っていうふうにどうも捉えたらしくって。
「私の教育方針があります」というようにどうもとってしまったらしくて、バチンっていっちゃって。まぁそういう、「お前が踏み台にされてるだけじゃないか。落語が、そして私も踏み台にされてるんだ!」ってなっちゃって。
それで、ウチの師匠は「全然関係ない仕事ならまだしも、よしんば踏み台であったとしても、落語を勉強して、ラジオってお喋りの世界で活きるんなら、それはそれで僕はいいと思ってます」って言った後に、円楽師匠がもう一キレし始めちゃったから、改めて話に行きますっていうことで終わったんだけど。
まぁ、俺もそこで引きどころが分かってるからっていう。あと、(先代の円楽師匠は)凄くカラッとした人なんで、何日かすると忘れちゃう人だから大丈夫っていう。言うことは言う、テンションMAXまで怒られるけど、そこで引くっていうことをやって、「まぁあの日は終わったんだけどな」っていう話になり。
もうちょっとこっちからすると…俺からすると、やっぱその時俺も子供だからさ、「師匠がクビになっちゃう」とか色んなこと思うわけ。でいて、結構ヤバイところまで行ってたんだってことが分かるから。もうちょっとさ、泣いちゃいそうになるわけ。
伊集院光:俺はそれを聞いてショックだから、そのまま師匠の家に行って、「今日、ご迷惑をおかけしてしまったようで…」って言いに行くわけ。「ああ、大丈夫、大丈夫。師匠の虫の居所が悪かっただけだから、まとめといたよ。ちゃんとやっといたよ。気にしなくていいよ」って言われんだけど。
そこから先は、こっち側からすると、落語に自信も失ってるし、熱意もかなり失ってるし、そんな中、ラジオをすでに始めてるから。ある意味、「いいや」ってなっちゃってるの。その「いいや」のとどめはそこだから。
もちろん、これはカッコイイ言い訳なんだ。そこで自分自身が落語に対する情熱が、最後の一本が…みたいに言うのは簡単だけど、まぁ結局、テレビ、ラジオの世界もきらびやかに見えたんだろうし、落語会の関係性にも疲れたんだろうし、落語上手くならないことにもイヤになってたんだろうけど、まぁまぁ最終的にその日から、かなり自分の中でギアが「三遊亭楽大はいいや」ってなってて。
先代の円楽訃報に際して
伊集院光:円楽師匠の存在は、あまりにも大きかった。僕の師匠である三遊亭楽太郎が掛け替えのない恩師だとすると、円楽師匠はその青春時代を過ごした、学校のようなものであると思う。
それが無くなってしまう虚無感がある。あんな大きな存在が無くなるんだって、そう思った。
(先代の円楽師匠の通夜に)楽太郎師匠がいらっしゃって。遅れてきたことや、一門じゃないことを言われるのかなって思ったんですけど、そこで師匠が「横に座れ」って言ってくれたんだよね。それで、居づらくなくしてくれた。そこから円楽師匠の話をあれこれしてて。
それから、兄弟子と飲みに行って。そこでも、落語家時代の色んな話をしてね。毎月、1がつく日は円楽師匠の家に行くんだよ。それで酔っぱらって円楽師匠の家に行くんだけど、家に帰る金も時間もないから、夜中に行くんだよ。でも円楽師匠を起こしたらダメだから、家の前で待っている。でも、すごい寒いから円楽師匠の家と隣の家の間の隙間に挟まっていた。でも、そこに先客もいて、兄弟子がいたんです。そんなこともあって。
ほかにも、色んなことがあった。言えないこともね。…そんなことを話していると、落語家口調になるね。「っていうと何かい?」とかって言ってるのに気づいたね(笑)
円楽師匠の襲名パーティーに参加
伊集院光:6時開催で、5時半くらいに行ってね。こっちはガチガチですよ。規模の想像が付かないし、どこに座れば良いのか、とかね。俺のジャンルは分からないじゃないですか。弟子は弟子なんだけど、噺家じゃないなんて人は、他にいないですよ。結局、円楽一門の弟子の中に入ってたんですよ。
俺がスピーチすることになったんです。「それでは、元お弟子さんであった伊集院光さんにスピーチをお願いいたします」って言われたの。
色んなことを考えましたよ。元弟子って知っている人と、それすら知らない人とか、今でも弟子って知っている人とか、何層かに分かれているから、変なザワつきかたしていたの。その時に、普通におめでとうございますって言って座れば良いかなって思ったんですけど、「若手なんだから冒険しろ」って普段、若手芸人に言っているんです。それなのに、俺が冒険しないでどうするんだって思って、冒険することにしたんです。
「25年前、弟子にしていただきました。その時から思っていました。楽太郎は(他の師匠と)どっか違う」
そう言って、バクバク心臓が言って、脇から汗がしたたり落ちてるのが分かりましたよ。そうしたら、ドッカーンってウケたんです。久々のあの若手の感じですよ。
師匠からも「オイオイ」ってジェスチャーをされてね。ヤッターって思ったんです。それで、「こういう晴れの席で端っこで見せていただいて思いました…俺の目に狂いは無かったね!楽ちゃん!」って言って。そうしたら「シーン」ってしちゃった(笑)
二回は多かったみたいね。やりすぎちゃったみたい。だから「ありがとうございました」って言ってすぐに座りましたよ。
円楽師匠との「親子会」
伊集院光:正月に、師匠に会ったときの話。新年会で、久しぶりに師匠のところに行った時の話なんだけど。
なんか、すげぇ飲んでて。みんなベロベロになってる時に、一門の誰かが多分…俺より上の人、あの時いた上の人誰かな…まぁ、上の人が、「あんちゃん、また落語やんねぇのかよ?」って話始まったの、俺に対して。
「あんちゃん、落語やんねぇのかよ」って話、始まって。半分くらい苦笑いで付き合ってたら、横からウチの師匠が「よせ、よせよ」って。「こいつには、こいつの仕事があるんだから」って、助け舟を出してくれて。
「まぁ、ほら。俺が70になった時の記念の会みたいなところで、ちょっととかはさ、ほらな…さぁ、飲もうか、飲もうか」って(笑)
…え?(笑)ウチの師匠、68だから(笑)そんな先じゃないじゃん。師匠もフワッて言って、スーッてしまっちゃう感じの。「はい、はい、話はおしまい。はい、約束ね」的な(笑)
ウチの師匠が(医師を目指すNHK島津アナに)「なるほど、そうか頑張ってくれ」と。「頑張んなさいよ」っていう、「なんでも人間やろうと思えばできるんだから」って話の後に、「師匠がおっしゃってましたよ」っていう。
「ウチの伊集院も、ある意味今、まわり道中みたいなものだから」って言ってたっていうのね(笑)え?どういうことって思って(笑)
「え?それ、どういうこと?」って思って。「…なにが?」っていう感じ(笑)さらには、今回(三遊亭円楽から)メールきてびっくりしちゃって。ある意味、弟子が家に来ようが、放っておけばいいんだよ、弟子なんか。放っておけばいいのに、わざわざメールくれたから、これで返信しないわけにもなかなかいかないよねって思って。
「こちらこそ、留守中にお邪魔してすみません」みたいな。「失礼致しました」っていう。なんだかんだ書いて、最後のところに何かこう見舞い事だけ書くのもなんだなって思ったんで、ちょっとフリートークじゃないけど、何か身近な話題も入れとこうと思って。
追伸として、「最近、『天狗裁き』にハマっています。あの話は狂ってて、とても面白いですね」って、その話を締めたの。そしたら、その後、「『天狗裁き』はよく出来てる話だから、色んな演出の仕方ができると思うよ。場面も設定もすごい良く出来てる話だから、キャラクターの膨らまし方とかすると、自分なりのいいものができると思うから、練習して覚えてどっかでやってみたらいいんじゃないの?バイバーイ」って書いてあった(笑)
やらないよね、それどう考えても(笑)仕事としては。何かが迫ってる感じっていうのは、ひしひしと感じながら。まぁ、まあね(笑)